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オリジナル絵の展示や、その時はまったゲーム絵、本の感想などごった煮です。
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 ゆめをみた。

 1。
 まっくらだ。
 学園祭でやる肝試しの打ち合わせですっかり帰りが遅くなってしまった。
 少年は学校の門を閉めながら暗い夜道を見て不安になる。
 車も走らない真っ暗な道路。

 振り向いた学校も真っ暗で
 一緒に打ち合わせしていたはずの友人たちは
 いつ帰ったのだろう、と不思議に思う。
 道路わきの団地も灯りひとつなく静かだ。

 こんな時に飼っている白い大きな犬が一緒にいてくれたらな、と思いながら
 後ろから車が走ってきた事に少し安心する。
 そういえば誰か、今日、犬に餌をやってくれただろうか。
 母は何か奇妙に太った腐った虫のような生き物に夢中だ。

 餌を。

 ふと、昨日は餌をやったろうか、と思う。一昨日は、その前は。
 前に餌をやったのはいつだろう。

 後ろから来た軽トラックのライトが、いつまでも自分を照らしている事に気づく。
 あまりにこちらに寄っているので、怖くなって反対の歩道に移ろうとすると
 軽トラックも、ゆっくりと車線を超えてこちらに来た。
 思わず運転席を見ると中年の男性が目を剥いて口から血を流している。
 どうしてあんなに顔色が悪いんだろう。
 まるでさっき友人と笑いながら話した、映画に出てくるゾンビみたい。


 犬に餌を。


 そう思った瞬間、視界が真っ白になって意識を失った。
 


 2。
 最後の財産分与の話し合いに行くから資産のリストを見ておいて。

 そう言ったが、あの男はきっと原稿に夢中でやってはいないだろう。
 同じ小説家として才能は認めるが、あの生活能力のなさにはうんざりだ。
 女は男が仕事場にしている安アパートのドアをノックもせずに開けて
 その汚さにため息をつく。
 玄関に共著作の小説がリストアップされた紙が置かれている。

 あら、こんな話書いてたかしら。
 リスト見覚えのない小説のタイトルに首を傾げながら
 ふと、アパートのわきの道路の看板が半分倒れているのが目に入って気になった。

 ひたすらパソコンを前に文をつづる「元」夫の背中に問いかける。
 

  -ねぇ、この「グリーン・パーク」って

  -…ああ、それは読んじゃダメだよ

 話しながらも看板を直しに行く。
 なんでこんな錆びれた看板があるのかしら。
 落ちている半分を持ち上げてみる。

 「グリーン・パークまであと」
 
 手に持った原稿の中身が気になった。
 バンドで成功するのを夢見た、5人の若者の話のようだ。
 何気なく目が文章を追い、5人が地方のライブに行くために
 バスに乗り込んだところで声がした。

  -…読むと取り込まれるよ 僕みたいに

 誰もいない道路に、看板がまた落ちた。
 


 3。
 あのころは本当によかったよなぁ。

 そう赤い顔で叫ぶ青年二人。
 本当だよ、夢もあってさ、絶対やってけるって思ってた。
 人気のない道路で大声で話す二人はスーツもよれて
 だいぶん酒が進んでいるようだ。

 あの事故さえなければなぁ。
 そう言った所で道路のわきに看板が立っているのに気づく。

 「グリーン・パーク行き」

 おい、これ。
 なんでかつてのバンドの名前が。すごい偶然だ。
 振り向いて見せようとした瞬間、横にバスが停車した。
 酒に一気に醒めた顔で友人が言う。
 これ、俺たちが乗ったバスじゃないか。

 乗ってはいけない。
 急にどちらともなく恐怖に駆られて走り出した。
 あの時、乗り込んだバスが事故にあわなければ。
 静かな住宅地を必死で駆ける。
 通り過ぎた時に、階段に座り込んだ若い男女が話す声が聞こえた。

  -私も小説家になるのが夢なの。

 バスの入れない細い路地に逃げ込んだ時には一人きりになっていた。
 ちょうど走ってきたタクシーを捕まえて乗り込む。
 暖かい車内でようやく人心地ついた。

 酔いのせいで変なものを見たか。
 少し走ってもらって友人を拾おう。
 そう苦笑し運転手に声をかける。

 ごめん、友達とはぐれちゃってさ。
 ちょっとこの辺、ぐるぐるまわってくれない。

 返事がない。
 感じの悪い運転手だ。むっとして声を荒げる。
 ちょっと、あんた。
 クレームのひとつでもつけてやろうと、運転手の名前を見ようとする。
 そこで初めてはぐれた友人が助手席に乗っているのに気づいた。
 
 なんだ、お前。乗ってたのかよ。

 そう言いながら運転手の名前プレートを見ると
 マジックか何かで黒く塗りつぶされている。
 ぎょっとして運転席をみると、顔色の悪い中年が前を見たまま告げる。

  -名前がないのはあなたも一緒ですよ
   だってアンタも死んじゃったんだから 
 
 言われている意味が分からずに助手席の友人を見る。
 寝ているにしても、なんであんなに首が曲がっているんだろう。
 暗闇の中、タクシーを拾おうと歩道で手を上げている青年が3人
 ライトで浮かび上がった。
 それぞれにギターなどを持っている。

  そうだ、あの時、乗客に生存者なんていなかったじゃないか

 暗いタクシーの中で光る「予約」の文字をみて
 そういえば、子供の頃、飼っていた白い大きな犬はどうしたかな、と
 ふと思い出した。
 いや、そもそも犬なんて飼っていただろうか。

 タクシーが止まった。

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